東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)80号 判決
一 請求の原因一、二は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決の取消事由について検討する。
1 本件意匠が意匠にかかる物品を携帯用コンクリート非破壊試験機とし、別紙(一)に記載の構成からなるものであることは、当事者間に争いがなく、これによれば、本件意匠の構成は次のようなものであることが認められる。
比較的長い円筒状に形成された把持部(以下この円筒状部分を「本体」という。)の一方端(先端)には、本体の長さの約三分の一に相当する長さで先細状をなす円錐台状部を連設し、その先端部には、極く短い円筒の環状部(その外径は、右円錐台状部の先端の外径に同じ。)を配設し、その表面はローレツト切りの態様とし、右環状部の先端には、これより更に短い円錐台状部を形成し、この円錐台状部の先端に打撃杵を装着(ただし、これを押し込んだ状態を図示)し、また、本体の他方の端部(後端部)は、極く短い長さでローレツト切りの態様とし、その後端はゆるい凸球面状を形成し、本体のほゞ中央部には、長手方向に長方形の目盛板を配設したものである。
2 一方、引用意匠の意匠にかかる物品が携帯用コンクリート非破壊試験機であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第九、一〇号証によると、引用意匠の構成は次のようなものであることが認められる。
比較的長い円筒状に形成された把持部(以下引用意匠においてもこの円筒状部分を「本体」という。)の一方端(先端)には、極く短い斜状環状部を介して、本体の長さの約四分の一に相当する長さの細い円筒状部(その外径は本体のそれのほゞ三分の二)を連設し、その先端部には、右円筒状部の外径よりやゝ大きい外径の短い円筒状環状部を配設し、その表面はローレツト切りの態様とし、その先端部には極く短い先細の斜状環状部を連設し、その先端より打撃杵を先方に突出し、また、本体の他方の端部(後端部)は、本体の外径よりやゝ大きい外径の短い円筒状の凸状環状部を配設し、この部分をローレツト切りの態様とし、その後端面はゆるい凸球面状を形成し、本体のほゞ中央部には、長手方向に長方形の目盛板を配設したものである。
3 原告は、引用意匠の円筒状の本体の先端に連設された部分は円筒状ではなく先細の円錐状である旨主張するが、右部分は右認定のとおり円筒状であり、これと同趣旨の審決の認定に誤りはない。
また、原告は、本件意匠は打撃杵を押し込んだ状態を、引用意匠はこれを突出した状態を示しているのに、審決はこれを同じ状態を示したものと誤解した旨主張するが、右認定と同趣旨の審決の認定に原告主張の誤りはない。
したがつて、原告の右各主張は採用できない。
4 次に前記1、2で認定したところに基づき本件意匠と引用意匠とを対比検討する。
(一) 本件意匠及び引用意匠は、共に、概括的には、本体が比較的長い円筒状をなし、その先端から先を先細状としてその端部に打撃杵を装着した形態のものである点で共通するほか、部分的にも、本体の後端部をゆるい凸球面状とした点や本体のほゞ中央部に、長手方向に長方形の目盛板を配設した点において共通であるということができる。
(二) しかしながら、本件意匠にあつては、本体の先端には本体の約三分の一の長さにわたつて先細状をなす円錐台状部が連設され、これよりいずれも極く短い円筒の環状部と円錐台状部を介して打撃杵に至る形状を呈することから、本体の先端から打撃杵に至る部分は、ゆるやかに連続して先細状となる形態が示されている。
これに対し、引用意匠にあつては、本体の先端には、短い斜状環状部を介して、長さが本体のそれの約四分の一、外径が本体のそれの約三分の二の円筒状部が連設され、更にその先端にはこれより外径のやゝ大きい円筒状の凸状環状部が配設されている形状により、本体の先端から打撃杵に至る部分は、これら円筒状部の組合せによつて形成される段状の形態が示されている。
(三) ところで、両意匠の意匠にかかる物品である携帯用コンクリート非破壊試験機の用法は、前記甲第九、第一〇号証からも認められるとおり、これを水平にして本体を両手で把持したまま打撃杵の先端をコンクリート壁面に当てるのであるから、看者の目は両意匠における本体よりもむしろ本体の先端から打撃杵に至る部分に注がれるということができる。従つてこの部分の美的印象の差異が看者に強く認識されるものと考えられる。原告は、右部分は機能上先細状とせざるをえない必然性があり、意匠を選択する余地のない部分であると主張するが、そのように意匠的選択の制約される領域であるのにかかわらず、叙上のような差異が存することは、むしろ意匠の類否判断においてこれを重視すべきものというべきである。
これに対し、前記(一)において述べた両意匠の共通点とされる本体の後端部の形状及び本体に配設された目盛板は、前記両意匠にかかる物品の用法に照らすと、前記本体の先端から打撃杵に至る部分に比べ看者の注意を惹くことが少ないといわなければならない。従つて、これらの点は、両意匠を全体として観察した場合に、とりたてて重要な部分とみることはできない。
(四) 以上のとおりであつて、本件意匠と引用意匠との間に前記(二)のような差異があることからすれば、前記(一)に述べた概括的な共通点を考慮にいれてもなお両意匠はその生ずる美感を異にするから、両者が類似するということはできない。従つて、両意匠を非類似のものとした審決の判断には誤りがない。
5 原告は、本件意匠の類似意匠として登録された意匠(甲第四号証)及びこれに類似するとして意匠登録出願が拒絶された意匠(甲第五号証)を挙げて審決の認定判断を争うが、成立に争いのない甲第四、第五号証によると、右各意匠は、本体に先細状の円錐台状部が連設されたものであつて、引用意匠と同一に論ずることができないから、右各意匠の登録又は登録出願拒絶の事実は前記認定を左右するものではない。
6 以上のとおりであるから、審決の取消を求める原告の主張は採用できない。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
被告は、意匠に係る物品を「携帯用コンクリート非破壊試験機」とする別紙(一)に記載のとおりの構成からなる登録第二九四七八一号意匠(昭和四一年四月八日意匠登録出願、昭和四四年二月一三日登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。原告は、昭和五七年三月二九日特許庁に対し、本件意匠の登録無効審判を請求し、同庁昭和五七年審判第六七〇六号事件として審理されたが、昭和六〇年二月六日右審判請求は成り立たない旨の審決があり、その謄本は、同年四月一〇日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本件意匠の意匠に係る物品、構成及び出願・登録関係は前項のとおりである。
2 本件意匠の全体の基本的構成態様は、本体を円筒状とし、その先端を円錐状に形成して端部に打撃杵を装着したものであり、各部の具体的態様は、円錐状部を本体のほぼ三分の一の長さとし、該部の先端付近には極く短い円筒の環状部を形成し、その表面はローレツト切りの態様とし、その本体は、その周胴部に長窓のある細帯状の目盛板を軸方向に配し、後端部周縁はローレツト切りの態様として後端面を低い球面状にしている。
3 これに対し、社団法人日本セメント技術協会発行(昭和二九年一二月一日)「コンクリートの非破壊試験法」第一四ページ所載の図―一五、ハネカエリ式ハンマー(B・B・R製)の写真に示された意匠(以下「引用意匠」という。)は、別紙(二)のとおりであつて、その構成は次のとおりである。
全体の基本的構成態様は、本体を円筒状とし、その先端を段状部を介して細い円筒状に形成し、端部に打撃杵を装着したものであり、これらの具体的態様は、前記の細い円筒状部(本体のほゞ三分の二の径)が本体のほゞ三分の一の長さとし、本体からは短い斜状環状部を介して配設され、該部の先端付近には極くわずかに凸状の環状部を形成し、その表面をローレツト切りの態様とし、本体はその周胴部に長窓のある細帯状の目盛板を軸方向に配し、後端周縁をローレツト切りの態様として後端面を低い球状面にしている。
4 そこで右両意匠を比較すると、両者は、意匠に係る物品が同種であり、その基本的構成態様において本体を円筒状、その先端を先細状とし端部に打撃杵を装着した点、具体的態様において先端部の長さの構成比、本体の目盛板及び後端面の態様等が共通し、他方基本的構成態様の先端部及び具体的態様の先端部並びに先端部の端部付近の態様等に差異がある。
これら共通点と差異点とを総合的に観察すると、両意匠は、本体すなわち把持部の態様を円筒とするものでこの点は意匠上かなりの共通感を奏する。しかし、両意匠は、共に本体に連設された先端部が本体に対しほぼ三分の一を占め、その共通感に影響を及ぼす大きさを有するものであるところ、本件意匠にあつては、円錐状として円筒状の本体から連続的に先細状に形成したのに対し、引用意匠にあつては、本体の太い円筒状に短い斜状環状部を介して小円筒状へと段状に形成したものであり、この小円筒状が本体側の斜状円環状部と、先端の極くわずかである凸状の環状部とに挟まれ、これらが相俟つてその態様が強調され、段状が強く認識されるのであり、この部分が両意匠の間に相当の差異感を誘発させるものであり、両意匠間における先端の態様の処理の効果は、意匠上価値あるものと認められる。
そして両意匠間における他の共通点は、前述の共通点に比して、部分的若しくは機能上必要的なものとして比較的微弱なものと認められる。
このように両意匠の共通点及び差異点を勘案し意匠全体として総合的に観察すると、差異点が効果的に作用し、共通点を凌駕しているので、両意匠は非類似のものというべきである。
5 よつて本件意匠は、意匠法三条一項三号に規定する意匠には該当せず、従つて同法三条一項に違反するものとしてその登録を無効とすることはできない。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>